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名古屋高等裁判所 昭和59年(行コ)1号 判決 1985年1月31日

名古屋市西区城西二丁目一番三号

控訴人

平山隆夫こと 申昌鎬

右訴訟代理人弁護士

岩崎光記

名古屋市西区押切二丁目七番二一号

被控訴人

名古屋西税務署長

森次郎

右指定代理人

服部勝彦

青山祥男

山羽章雄

小泉治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、(1)昭和四九年三月八日付でした控訴人の昭和四五年分所得税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分、(2)昭和四九年三月九日付でした控訴人の昭和四六年分所得税についての更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも異議及び裁決により取り消された部分を除く。)、(3)昭和四九年一一月六日付でした控訴人の昭和四七年分所得税についての再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、いずれも裁決により取り消された部分を除く。)をいずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示及び当審訴訟記録中証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(原判決事実摘示の訂正)

1  原判決五枚目裏五行目、一五枚目表三行目、同枚目裏九行目、三〇枚目表八行目及び三一枚目表三行目の各「一四九二万円」をそれぞれ「一四八二万円」に改める。

2  同三一枚目裏八行目の「4万円」を「4万4000円」に改める。

3  同三五枚目裏一一行目の「持っていく。」を「置いていく。」に改める。

4  同三八枚目裏八行目の「甲号各証」を「乙号各証」に改める。

5  同七五枚目表の「期間」欄五行目の「8/15~12/31」を「8/16~12/31」に改める。

(控訴人の付加した陳述)

1  雑所得につき、竹中秀雄に対する貸増金は矢内キン及び川野周道から借り受けたものであるとの控訴人の主張が認められない場合は、右貸増金は控訴人の自己資金によるものである旨主張する。そうであれば、控訴人の昭和四六年分の雑所得は四六三万五二八六円、昭和四七年分のそれは一〇七六万〇九四一円と認定されるべきである。

2  控訴人は、竹中秀雄との間で竹中ビルの請負工事残代金二四二六万七一〇五円を消費貸借の目的としたほかに、同人に対して更に貸増しをしたことは、次の事実によっても明らかである。

(一) 昭和四六年二月一六日作成の公正証書(甲第一号証)には、控訴人が竹中に対して金五〇〇〇万円を利息日歩四銭一厘、弁済期昭和四八年二月末日と定めて貸渡した旨の記載がある。仮に、被控訴人主張のように二四二六万七一〇五円の請負工事未収金を利率日歩一五銭(年五割四分七厘五毛)とする貸付金に振り替えたものとすると、右公正証書にうたわれた利息の約定を無視することになる。

(二) 竹中は、竹中株式会社の代表者として前記公正証書が作成されてから半年後の昭和四六年八月一六日に、控訴人との間で、同年一一月三〇日までに金五〇〇〇万円を支払わないときは竹中ビルの所有権を控訴人に移転する旨の売買予約に関する契約書(甲第四号証)を作成しているが、右事実は、竹中に同年八月一六日当時すでに貸増額を合わせて合計五〇〇〇万円の負債が生じていた。少くとも同年一一月三〇日までの金利(月二分)を含めて五〇〇〇万円の負債が存在したことを意味する。

(三) 控訴人が貸増しをしていないとすれば、およそ二四〇〇万円の元本に対して半年間で二六〇〇万円近くの利息を生じたことになるが、かかる約定は、暴力的金融業者でもなければできないことである。

(四) 竹中は控訴人に対し、昭和四七年一一月二日に成立した和解契約(乙第三号証No.9)において、五六〇〇万円の債務を負担していることを確認した。右和解契約は、竹中株式会社の申請に基づき控訴人が竹中ビルに有する仮登記上の権利(原因昭和四六年六月二五日売買一方予約の所有権移転請求権仮登記)につき処分禁止の仮処分決定がなされた後に結ばれたものであり、しかも、竹中には弁護士が付いていたのであるから、同人として不本意な譲歩をする必要は全くなかったのである。

(五) 竹中は、前記公正証書作成後に五〇〇〇万円に達するまでの貸増しがなされた旨を記載した控訴人作成の書面(甲第一九号証)に、任意に、「上記の事はほぼ相違無いと思います。」と記し、これに署名している。

(六) 控訴人は竹中から、前示売買予約に関する契約書でうたわれた五〇〇〇万円の弁済期である昭和四六年一一月三〇日以降、竹中ビルの家賃として同年一二月に一一〇万円、昭和四七年一月から四月まで毎月一〇〇万円宛各支払を受けているが、同年五月以降一〇月までの賃料合計六〇〇万円は、前記和解契約において、五〇〇〇万円に上乗せが認められているのである。右月額一〇〇万円は、五〇〇〇万円に対する控訴人主張の月二分に相当する金員である。

(被控訴人の付加した陳述)

控訴人がミリオン開発から受領した十四山倉庫新築工事代金一四八二万円は、昭和四五年分の事業所得に算入されるべきである。すなわち、

1  企業が建物等の建設工事を発注して前渡金の支払をするときは、企業としては、建物等の完成引渡しをいまだ受けていないため、右前渡金の支払は建物勘定に計上せず、建設仮勘定に計上しておいて、建物等が完成しその引渡しを受けたのちに建物勘定に振り替えることになる。ミリオン開発においても、原判決事実摘示「被控訴人の主張」欄二2(一)(1)に主張のとおり、十四山倉庫にかかる支出が昭和四四年中は建設仮勘定で処理されているのであるから、同社が本件倉庫の引渡しを受けたのは昭和四五年になってからであることは明らかである。

2  また、ミリオン開発が本件倉庫について表示登記と所有権保存登記を経たのは、昭和四五年二月一〇日であるから、昭和四四年中に本件倉庫の引渡しがあったことを認めるに足る客観的証拠が一切存しない本件においては、右各登記の日の属する昭和四五年中に引渡しがあったものと判断せざるを得ない。もっとも、右表示登記の原因日付欄には「昭和四四年一二月二五日新築」と記載されているが、物の引渡しを要する請負契約において、請負人の請負代金債権が確定的に発生するのは、目的物完成の時ではなく、その引渡しを了した時であって、この意味から完成と引渡しとは区別されなければならない。

3  控訴人主張の別件民事訴訟は、もっぱら扶桑町の倉庫の新築工事をめぐり、工事代金の額と同工事の欠陥に起因する損害の賠償を争点としたものである。そして、本件倉庫の工事残代金一三二万一八三七円については、ミリオン開発はこれを一切争わず、右損害賠償債権二七九万〇四七〇円との相殺を主張して、その相殺による残額一四六万八六三三円を反訴請求していたものである。このような別件民事訴訟の内容からすれば、同訴訟において、ミリオン開発は遅延損害金の起算日たる本件倉庫の引渡時点まで詳しく認否、反論を尽くさなかったものと推察され、そのために、同訴訟の判決も「弁論の全趣旨によれば約定の期間内に引渡しがなされたものと認められる。」と判示するに止まっているのである。したがって、別件民事訴訟における右のような判示をとらえて、本件における重要争点たる工事代金の収入帰属年分の判断資料とすることは相当でない。

4  十四山倉庫新築工事の請負契約書(甲第二〇号証)に記載された引渡時期は、あくまで工期の予定であって、現実に引渡しのあった日を示すものではない。むしろ、同契約書の「請負代金の支払」欄には、「部分払建方時一〇〇万円、完成引渡しのときに残金全額」と記載され、一方、ミリオン開発が残金五〇〇万円(契約工事代金との差額は、前記損害賠償金との相殺を主張していた。)を支払ったのは、昭和四五年三月五日であることから、本件倉庫の引渡しが昭和四五年になってからであることは十分に裏付けられる。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は、理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四〇枚目裏七行目の「原告本人」を「原審における控訴人本人」に改める。

2  同四一枚目裏一〇行目の「前記請負契約には」を「前記請負契約に関する契約書には、請負代金の支払について『部分払建方時一〇〇万円、完成引渡しのときに残金全額』と定めてあるにとどまり、特に請負代金の過半に相当する前記八五〇万円を倉庫引渡し前に支払うべき旨の約定は存在しないこと、更に、」に、同四二枚目裏九行目の「原告本人」を「原審における控訴人本人」にそれぞれ改める。

3  同四三枚目表八行目の「当該年度中」から同枚目裏三行目末尾までを「当該年度において、(1)債務者の資産の状況、支払能力等に照らし、客観的に債権全額の回収不能が明らかな事態に立ち至ったこと、または、(2)債務者の債務超過の状態が継続し、ために、債権の回収を図ることが著しく困難となって、債権を放棄した事実が存すること、を要すると解すべきである(所得税基本通達五一-一一、五一-一二参照)。」に改める。

4  同四三枚目裏七行目の「証人」を「原審証人」に、同四四枚目表七行目の「認められ、」から一一行目末尾までを「認められる。」に、同四五枚目表五行目の「原告本人」を「原審における控訴人本人」にそれぞれ改める。

5  同四五枚目裏六行目及び八行目の各「原告本人」を「原審における控訴人本人」に改め、同四六枚目表三行目から四行目の「債務者の行方不明等」を削除し、同枚目裏一行目の「弁論の全趣旨」を「前顕甲九号証の四、原審における控訴人本人尋問の結果(二回)及び弁論の弁趣旨」に改める。

6  同四七枚目表二行目及び五行目の各「原告本人」を「原審における控訴人本人」に、同枚目裏一〇行目の「原告本人(二回)の結果部分」を「原審(二回)における控訴人の供述部分」にそれぞれ改める。

7  同四八枚目表一〇行目、一一行目の各「原告本人」を「原審における控訴人本人」に改め、同四九枚目表六行目の「協和工務店」の次に「、もともと、近藤均を代表者とする合資会社協和工務店を引き継いだものであって、」を、「七行目冒頭の「か」の次に「、右近藤均を含めて」をそれぞれ加え、九行目の「回復」を「回収」に改める。

8  同五〇枚目表四行目の「債務者の行方不明等」を削除し、六行目及び七行目の各「原告本人」を「原審における控訴人本人」に改める。

9  同五〇枚目裏八行目及び九行目の各「原告本人」を「原審における控訴人本人」に改め、同五一枚目表八行目の「乙一一二号証の一、二」の次に「(同号証の一は原本の存在も争いがない。)」を、同枚目裏五行目の「成立につき争いのない」の次に「甲二六号証の一ないし三、」をそれぞれ加える。

10  同五二枚目表四行目の「証人」を「原審証人」に、五行目から六行目の「原告本人尋問(二回)」を「原審における控訴人本人尋問の結果(二回)」にそれぞれ改める。

11  同五三枚目裏五行目の「一一四号証、」の次に「原審証人山崎秋雄の証言及び」を加え、「原告本人」を「原審における控訴人本人」に、同五四枚目表三行目の「原告と」から四行目の「結んだこと」までを「みずから控訴人と会って本件店舗の賃料額を取り決めたこと」に、八行目の「届けていたこと」を「届けており、山崎秋雄においても賃料は全額控訴人に交付されているものと思っていたこと」に、一一行目の「山崎秀雄」を「山崎秋雄」に、同枚目裏一行目の「証人」を「原審証人」に、二行目の「および」から三行目の「結果」までを「、同証人並びに原審(一回)及び当審における控訴人の各供述」に、五行目の「ある旨の記載」を「ある旨の控訴人の主張にそう記載」に、一〇行目の「毎月原告に」から一一行目の「不自然であり、」までを「当初控訴人との間で直接本件店舗の賃料額を取り決めたうえ、自己の支払う賃料が全額控訴人の許に届けられているものと思料していたなどということは事理に反する経緯というべきであり、」にそれぞれ改め、同五五枚目表四行目冒頭の「人」の次に「たる山崎」を付け加え、四行目から五行目の「何ら権利を有するものでもない」を「格別出損をしているとは認め難い」に改める。

12  同五五枚目裏五行目から六行目の「一九六万円」を「一九六万八〇〇〇円」に、六行目の「196万円」を「196万8000円」にそれぞれ改める。

13  同五六枚目表一一行目の「原本」を「原本の存在」に、「原告」を「原審における控訴人」に、同五七枚目表四行目の「額面」を「額面合計」に、同五八枚目表四行目、一〇行目及び同枚目裏五行目の各「竹中」を「竹中株式会社」にそれぞれ改め、同枚目裏七行目の「認められ、」の次に「原審(一、二回)における控訴人の供述中右認定に抵触する部分は採用し難く、他に」を加える。

14  同五九枚目裏一行目の「原告本人尋問」から二行目末尾までを「当審証人竹中秀雄の証言により成立を認める甲一九号証並びに原審(一、二回)及び当審における各控訴人本人尋問中には、いずれも右主張にそう記載及び供述部分が存する。」に改める。

15  同六〇枚目表一行目の「前掲」から同枚目裏三行目末尾までを「前掲各控訴人の供述を除いては何も存しない。また、前記甲一九号証は、その記載内容に控訴人が主張するところと一部齟齬する点があるうえ、竹中秀雄は、当審において、必ずしもその記載内容の正しいことを確認して署名したわけではない旨を述べ、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙一一三号証(竹中秀雄に対する大蔵事務官の昭和五七年八月一九日付聴取書)にも同旨の供述が記載されている。以上に加えて、前掲乙三号証によれば、竹中は大蔵事務官による昭和五二年六月二八日の聴取に際して昭和四六年二月一六日以降控訴人から金員を借り受けたことはない旨明確に述べていること、更には、前認定のとおり、控訴人は、岩塚工務店が事実上倒産したのちの昭和四五年一〇月二二日ころ、同店の代表者岩塚保治に金五〇万円を貸付け、同日、同人所有の建物に債権額を一〇〇万円とする抵当権設定登記を了しているところ、控訴人は、原審(二回)において、かように実際の貸付額に倍する額を抵当債権額として表示した理由は、将来における利息、損害金あるいは競売の費用等を見越したものであると述べており、前記公正証書も、実際の請負工事未収金額のほぼ倍額を債権額としている点において、右岩塚保治の場合と態様を同じくしていることなどを参看すると、控訴人の主張事実にそう上掲各控訴人の供述及び甲一九号証の記載はたやすく採用し難いものというべく、他に右主張事実を認めるに足りる的確な証拠もない。」に、同枚目裏四行目の「しかも右」を「そして、控訴人主張の」にそれぞれ改める。

16  同六一枚目裏五行目の「疑問を払拭しきれないが、」を「疑問が生じないわけではないが、原審及び当審における証人竹中秀雄の証言に徴すると、当時、控訴人との間には、前記のように債権額を五〇〇〇万円とする公正証書が存在し、かつ、竹中ビルには控訴人のために所有権移転請求権仮登記が経由されている状況のもとで、竹中としては、利息金額が幾ばくになるかということよりも、現実に控訴人にいくら支払えば竹中ビルに関する権利を確保し、事態を解決に導きうるかが焦眉の関心事であったことを窺知することができるから、昭和四七年一一月二日の和解契約における竹中及びその代理人の対応をもって一概に不合理なものとは難じえず、そうすれば、」に改める。

17  同六四枚目表五行目の「一四九二万円」を「一四八二万円」に、七行目の「一一五四万一五一七円」を「一一五五万一四二七円」にそれぞれ改める。

18  同七六枚目の手形目録最上段の「受取人」の次の「振出人」を「振出日」に改める。

19  同七七枚目別表一一の総所得金額欄の「一一、五四一、五一七円」を「一一、五五一、四二七円」に、事業所得金額欄の「一〇、四〇七、五一七円」を「一〇、四一七、四二七円」に、収入金額欄の「一二九、二二〇、七二四円」を「一二九、三二〇、七二四円」に、算出所得額欄の「一二、八〇五、七七三円」を「一二、八一五、六八三円」にそれぞれ改める。

二  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田四郎 裁判官 名越昭彦 裁判官 三宅俊一郎)

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